皆さん、藍染めってご存知?観光地などで染め物体験でやったことある方もいらっしゃるかな。どうも、そのまんま美川のボクナリ(@BOKUNARI)です。
友達の会社が手掛ける「OMACHI創造計画」の一環で、静岡市の人宿町エリアに藍染工房を作るそうで、ちょいとその立ち上げを依頼されまして、この2020年のお正月明けから1ヶ月弱、藍染めの本場・徳島県に勉強に行ってまいりました。
静岡が「茶どころ」ならば、徳島は「藍どころ」というくらいに藍染めの盛んな地域で習得してきたノウハウは、もしかしてアタクシ、芸能界で唯一「藍建て(藍染めの染液を作ること)のできるタレント」になっちゃったかもしれません。
藍染めのプロのための研修も受け入れる「技の館」

今回の修行…研修でお邪魔しました、徳島県上板町(かみいたちょう)技の館内にございます「一般社団法人ジャパンブルー上板」の皆様。
一般的な藍染体験では習得できない、藍染めの生命線ともいえる染液の作り方や管理方法、染の基本的な技法などが深く学べるサービスを提供されています。
藍染めの染液=発酵の繰り返し 藍建てを学ぶ
そもそも、藍染めに用いられる原料って考えたことあります?

答えは「草」。
蓼食う虫も好き好きということわざでおなじみのタデ科の植物「タデアイ」が原料になっています。この栽培が一次産業。

そのタデアイの葉を発酵させて腐葉土のような状態にしたものを「蒅(すくも)」と呼ばれる染料にするのが「藍師」という職業で、二次産業。
この蒅の状態では染められないので、材料の蒅を染液に仕立てるのが「藍建て」という工程で、これが教科書にできないとても繊細なものでした。
藍染め材料、蒅(すくも)から染液をつくる工程。化学薬品を用いる「ハイドロ建て」に対して、今回は江戸時代に確立された自然発酵によって染液をつくる「天然灰汁醗酵建て(通称:地獄建て)」を習得。

地獄建てってフレーズが好きだわぁ〜
天然灰汁醗酵建て(地獄建て)で藍染めの染液をつくる
皆さんが藍染体験施設などで実際に目にする状態の染液をつくって行きます。材料を仕込んでから自然発酵によって色が染まる状態になるまで、1週間から季節によっては2週間くらいかかるので気長じゃないとできないお仕事。

今回は約100Lの染液をつくることに。材料は「蒅(すくも)」「ふすま(小麦の外皮)」「消石灰」。最後に木灰からとった「灰汁」をタンク半分の約50L投入しました。

見た目はカフェラテのような、黒ビールのような泡が立ちます。温度とpHを管理しながら自然発酵が進むのを待ちます。

3〜4日経過すると、藍色の泡に変化してくるので、pHを調整した灰汁で「かさ上げ」の工程。2回に分けて目指す100Lまで液量を増やしていきます。

材料の「蒅(すくも)」の酸性と、「灰汁(あく)」のアルカリ性が反応している。そこには微生物のチカラが必要で、その栄養素になっているのが「ふすま」というわけ。「消石灰」はpHバランスを保つのに用いている。
自然発酵によって青く布が染まる液体ができるというのは本当に神秘なことですね。

江戸時代にはこの「天然灰汁醗酵建て」の方法が確立されて全国に一気に藍染めが広まり、ジャパンブルーと称されるようなブームになったそうです。
天然灰汁醗酵建ての染液は素手で染めても大丈夫

今回の「天然灰汁醗酵建て」の染液には化学薬品を用いていないため、素手で扱うことができるのが特徴です。
このため、藍染めの本場・徳島県の作家さんは自身の工房で「天然灰汁醗酵建て」を行っている証明のように手が真っ青な方が多いのも頷けるところでした。
藍染めの基本の染め方

次に、藍染めに用いられる基本ともいえる「染め方」について。これがとても簡単な方法で様々な模様に染め上げることができたり、季節限定でしかできない貴重な染め方まで様々でした。
染液に浸かった部分は青く染まり、そうでない部分は白く残る。そんな仕組みを知っておくと、藍色と布の色のコントラストだけで表現する藍染めのデザインがわかりやすいです。
ここでは藍染体験施設などでも提供されることの多い、代表的な藍染めの技法をご紹介してみましょう。
ろうけつ染め
お絵かきが楽しいお子様から、絵心・書道に自信のある方にぜひチャレンジしていただきたいのが、筆に溶かした蝋(ろう)をつけて模様を描く「ろうけつ染め」。

染色に使う専用の蝋燭をヒーターで溶かしたものを筆に含ませて絵や文字を描いていきます。蝋がついた部分が後に白く、他の部分が藍色に染まる技法です。
一発勝負な気構えが必要なものの、描き方によっては思い描いたままの繊細なデザインに仕上げることが可能なので、お子さんから大人まで幅広く楽しめる染めです。

僕はいつも色紙を頼まれた際に書くサインと、美川憲一さんから昔教えていただいた美人画をササッと描いてみました。
絞り染め
布を折り紙のように折ったり、てるてる坊主のように紐で縛ったり、体験施設などでは洗濯バサミやビー玉を使って模様をデザインするのが「絞り染め」という技法。


染めた後に折り目や紐を開いてみて初めて模様がわかる、ワクワク感のある技法。模様つけの段階で、布の展開図をイメージできるとデザインしやすい、理系向けの技法かもしれませんね。

僕はストールを絞り染めしてみました。
段階的に絞りを解いて、染める回数を変えることで藍色の濃淡が表現できるのも魅力的でした。
この「絞り染め」を用いたより複雑な作品は、美術館や展示会などで作家作品として展示されることも多いです。
また、そのジャンルも細分化されていて、針と糸を用いて絞る「縫い絞り」やグラデーションで表現するための「防染」、他にも「花絞り」「巻縫い絞り」などいろいろな絞り方があり、染め手の工夫次第でその種類は無限とも言えます。

板締め
絞り染めの技法の一種で、折りたたんだ布をいろいろな形の板ではさみ、防染(挟んだ部分が染まらないよにする)をして模様を表現する技法が「板締め」。

布の折り重ね方の工夫や挟む板の形状によって様々な模様をデザインすることが可能です。
板をキツく締め付ければソリッドに、やんわり締め付ければエッジがソフトな模様になるのも面白い技法です。

手ぬぐいを板締めしてみました。
工夫することで、1枚の布に違う柄を表現することができるので、仕上がりをイメージしつつデザインすると楽しい技法です。
型染めと抜染(ばっせん)
古くは柿渋を塗った和紙を切り抜いた型、現代ではコンピューターで作成したシルクスクリーンを用いて切り絵風の模様を表現する技法が「型染め」と「抜染(ばっせん)」。
仕上がりは同じように見える技法ながら、染めるプロセスは真逆なのが面白いところです。

【型染め】
型紙の上から、防染糊(色が染まらないようにする糊)を塗り、糊を乾燥させて染色。
【抜染(ばっせん)】
染色後の布に置いた型紙の上から抜染糊(脱色剤の入った糊)を塗り、図柄を脱色する。


いずれの技法も「糊を置く」際には図柄に対して均一の厚みで置く方がムラのない仕上がりになります。

同じ型紙(シルクスクリーン)を用いているので、デザイン的には差異がないのですが、「型染め」に対して「抜染」の方が柄のエッジがくっきり表現できるのが特徴です。
夏限定、貴重な藍染め「たたき染め」と「生葉染め」
藍染めというと紺色のような「藍色」を思い浮かべる方が多いかと思います。
しかし、藍染めの元となる「タデアイ」が収穫できる初夏から晩夏にかけてのみで染めることができる、とても貴重な「藍染め」が存在します。
たたき染め

藍染めの元である「タデアイ」は、葉に多くの青い色素が含まれるので、布の上にタデアイの葉をテープで固定して、その上からゴムハンマーで叩くだけでくっきりと葉の模様が染まります。その名の通り「たたき染め」。
他の植物と異なるのが、この葉っぱの模様は洗濯をしても簡単には落ちないということ。

皆さんのお近くの藍染め体験工房でも夏のシーズンは「たたき染め」の体験を企画しているところもあると思いますので、見かけたらぜひチャレンジしてみてください。

ゴムハンマーを握りしめて、日頃のストレス発散にもなりますよ
生葉染め

もうひとつ、夏の時期にしかできない貴重で神秘的な藍染めが「生葉染め」。
収穫したばかりの新鮮なタデアイの葉を、少々の水と共にミキサーにかけて砕きムース状になった液体を濾して作った染液を使います。
この「生葉染め」はシルクのみ染めることができます。

手品師のマギー司郎さんも驚きの、「藍染めなのに、シルクのハンカチが水色になっちゃった」といったところでしょうか。
藍染め関連書籍では読んだことがありましたが、実際に体験してみると藍染めの概念にない染まり方をして驚きでした。
生葉染めの染液は1回こっきりの使い捨て…
遠く飛鳥時代に、藍の葉で染められた色の装束は身分制度で位の高い方から2番目の人しか身に着けられなかったというのも納得です。
おわりに:1ヶ月ですっかり藍染めのプロ?!

この1ヶ月弱、徳島県上板町「技の館」「一般社団法人・じゃぱんぶるー」の皆様のお力添えで研修させていただいた藍染めの世界のごく一部をお話してみました。
滞在中には、そのまんま美川のプチショーも開催させていただいたりして、過ぎてしまうとお名残惜しいものでしたが、勉強させていただいた内容はしっかり静岡に誕生する藍染工房の手がかりにして参りたいと思います。
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